輪島へ
輪島に行った。
目的は棚田を見に行くことだった。一週間前に行こうとして都合が合わず諦めたスポットだったため、どうしても行きたかった。
ただ、その日はあいにく天気が悪く、朝から雨が降っていた。
移動しているうちに晴れるだろうとの、自分の中の晴れ男を信じて出かけ、そして自分には神通力が備わっているのか、到着する頃には奇跡的に晴れた。
千枚田に到着した
世界農業遺産の千枚田だ。
着いたころに晴れたはいいが、もともと夕方に着く予定であったのに昼過ぎについてしまっている。
追い越し車線で追い抜かれまくるほどゆっくり向かったのにこれだから、正直、ナビの到着時間はあてにならない。
早すぎては困った。というのも、ここ千枚田には「あぜのきらめき」と呼ばれるイルミネーションイベントがある。2万1千個のLEDライトが、太陽光パネルが発電できなくなる日没とともに光り始めるのだ。
それを写真に撮ろうかと思っていた訳で、おかげで大きく予定が狂ったのである。
しかもこの日は風も強くて、車を降りて外に出てみるとかなり寒かった。
それもそのはずで寒波がやってきていたらしく、ときどき雨が雪に変わっていた。
当たり前だが点灯してません
こういうのしか撮ることがない寂しさときたら、吹きつける寒風が体を冷やすよりも胸には寒かった。
しまいには荒波ばかり撮っていた
冬の日本海はよく荒れる。
この寒さでは絶対に飲み込まれたくないなと思いながら波打ち際の側まで寄って撮っていた。
こうして撮ってみてわかったが、波の写真ってなかなか難しい。
荒れてはいるけど理想より勢いが足りなかったり、シャッターを切るタイミングが合わなかったりで思いどおりにはいかないのだ。
しょうがないので、
そのうち空を狙うようになった
海は荒れているのに、空は天国のように淡い青色をしているのは何故だろうか…?
この日はやはりおかしな天気だった。
輪島市街地へ
時間が余りすぎていたため、いったん輪島市街地へと向かった。
久しぶりに朝市の方へと向かおうかとの考えであったが、昼を過ぎているのだから朝市もなにもない。
市街地を車でゆっくり走っていても人の姿はあまりなく、静かであった。
雪もちらつくこの寒い中を外に出たいと思う風の子みたいな人はそういまい。
人はほとんどいなかったが、代わりに、
ウミドリがいっぱいいた
それもかなり近いところにいた。
この光景を車を運転しながら見かけた自分は、すぐに端に車を停めてカメラを抱えてそろりと降りた。
人間に慣れているのか車が横を通り過ぎたくらいでは逃げもせず、自分が近づいていってもウミドリたちはその場から動こうとしなかった。
川(海の傍なのでほとんど海)には飛びだつ一羽もいた
自分との距離から考えると川の上のほうが安全だろうと思われるのに、飛びだったと思ったこの一羽はどういうつもりか、
こっちの列の方に飛んできた
これではより人間に近くなるであろうに。
人間との距離よりも群れていたほうがいいのか、鳥の気持ちは自分にはよくわからない。
そのうち自分も、このウミドリたちがどこまで近寄らせてくれるのか試したくなった。
彼らの方は見つめず、彼ら同様に川の方を眺めながらカニのように横歩きをして近づいた。
撮るときだけこっちを向く
この手前の白い一羽も、変なやつが近づいてきたと思っただろう。逃げようか逃げまいか少し足踏みなんかもしていた。
でも、足踏みだけで逃げようとはしなかった。
そのおかげで、
だいぶ寄れた
そしてこれ以上は限界だと思った。
まっすぐこちらを見ていないようで、その目は確実にこちらの動きを測っている。その目が、もう一歩近寄ったらカメラに蹴りを入れると訴えているようであった。
まあ、この距離まで寄れたことで自分としても満足であった。
さて、車に戻ろうと踵を返すと、ウミドリたちがいる方向とは逆方向にどこかで見たような橋を目にした。
何処かで見た橋
写真では光のせいでわかりづらいが、赤い橋だった。
輪島で赤い橋ということがポイントで、そのうち土屋太鳳さんが主役を務めていたNHKの連続テレビ小説『まれ』で観たのだと思い出した。
知らず知らずロケ地巡りをしていた、そんな気分であった。
このあと再び雨が降り始め、千枚田のイルミネーションが始まるまで待たずに帰った自分。予定が狂っても、ぶらぶらとよく知らない町を回っているとそのうち変な被写体を見つけるものだということが本日よくわかった。
それも、そういう写真のほうが予想外にいい写真になってくれたりする。
カメラの不思議である。