金沢市内の主なお宮さん36社のスタンプを集めながら参拝する「金沢お宮さんめぐり」にて「逆さ狛犬」がどれだけいるか数えてみた。
実際に参拝しに行って見てきた結果36社中10社で逆さ狛犬を見つけた。
前回、前編にて紹介した5社に続き、この後編でも残り5社の逆さ狛犬をコンパクトにまとめたいと思う。
(前編の記事は→こちら)
須岐神社
須岐神社(すきじんじゃ)だ
住宅地の細い道を入っていくのでわかりづらいところにある。
決して大きくはない神社であったが、その狛犬はかなり年季が入っていた。
逆さ狛犬だ
ちゃんと後ろ足が跳ね上がっている。
前編にて紹介した逆さ狛犬は右側にいて、しかも吽形(口を閉じている形)が多かった。それと比べるとこちらは左側にいて阿形(口を開けた形)だ。
その口には玉も咥えている。後ろ足の跳ね上げっぷりも地面に対して90°ではなく、45°くらいだろうか。
カラダの表面にかすかにナルト模様
逆さ狛犬の体表にはこのナルト模様をよく見かける。
表面の風化も著しくだいぶ潰れているものの、なんとか確認できた。
この風化だけでかなり古いものだろうと推測できる。
台座に彫られた文字もかすかに読める
これによると「明治十九年」のもののようだ。
前編で紹介した宇多須神社の逆さ狛犬が「明治二十七年」だったので、それより古いことになる。
対となる吽形はこちら
こちらもいい具合に古い。
すごく小さな神社でも、掘り出し物のようにこうした古い狛犬に出会えたりする。
諏訪神社
諏訪神社(すわじんじゃ)だ
金沢市寺町にある。
すでに見えているように逆さ狛犬がいる。
逆さ狛犬だ
右側にいて吽形、角もありカラダにナルト模様、後ろ足の跳ね上げっぷりがほぼ90°と、前編で紹介した淺野神社、宇多須神社、小坂神社のそれと系統が似ている。
こちらの諏訪神社の狛犬は鬣(たてがみ)や尻尾などのカールの造形がはっきりしていてきれいだ。
折れたであろうカールの一部も背中に置かれていた
折れてとれしまうくらいハッキリとした造形だ。
足の裏
大胆な肉球、そして鋭い爪をしていた。高さなどの都合、また劣化からこうやって足の裏をしっかりと撮れる逆さ狛犬って貴重だ。仮に同じ系統であっても足の裏は他の神社と微妙に形が違う。
台座の文字
「明治二十二年四月」と読める。こちらも宇多須神社より古い。
石工の名前も読めた
だいたいどこも台座は劣化しているので、こう石工の名前を読めるだけでも珍しい。
一人は「荒谷善太郎」(ただし「荒」の字は違っているかもしれない)と読める。もう一人は「由野行三郎」だろうか。それとも「田野」であろうか、はたまた「行」の字が別の漢字なのだろうか、上手く読めない。
気になったので少し調べてみたら、昭和3年の「金沢商工人名録」に野田寺町の石材で「由野伊三郎」という方の名前を見つけた。寺町で石材は共通している。明治と昭和では多少時代が離れているが、三時代(明治大正昭和)に跨って生きていた方は普通にいるので、もしかしたら由野伊三郎さんで正解なのかもしれない。
対の阿形
こちらもカールがはっきりしていて保存状態も良い。
逆さ狛犬の資料にしやすそうだ。
春日神社
春日神社(かすがじんじゃ)だ
水が有名
手水舎の水は地下100メートルから汲み上げている井戸水だそうで、このあたりでは美味ししい水として知られている。
この日も、手水舎の水を容器に詰めに来ていた人がいた。
また写真でもわかるように境内には稲荷社もあり、赤い鳥居が数多く並んでいる。
そんな手水舎の前を通って拝殿前にいくと逆さ狛犬がいる。
こちらだ
拝殿のきざし(階段)脇にいたので、なかなか撮りづらかった。
右側で吽形、角ありで体表にナルト模様と、これまで紹介した中で一番多い系統の逆さ狛犬だ。
その台座には「明治十五年九月」と彫られていた。須岐神社よりもさらに古い。
古いのにカールもしっかり残っていて保存状態も決して悪くない。
足の裏
こっちもちゃんと残っているがこうしてみると諏訪神社のそれとはやはり違う。
対となる阿形
こちらも細かいところがしっかり残っている。
足のヒダのようなギザギザ模様もキレイに残っている。
顎にセミの抜け殻を二つもくっつけているのは、ご愛嬌だ。
ついでに稲荷社の鳥居も紹介
右端の方に狛狐も写っている。
その狛狐たちは…
端正な顔立ちをしていた
前編で掲げた「逆さ狛犬がいる境内の稲荷社の狛狐はユニークな顔立ち」説は、どうやら正しくなかった。
またこの神社、別の入口にもう1対狛犬がいるのでそちらも紹介したい。
おすわりタイプの狛犬だ
ただし、こちらもデザインや表面の劣化から見るとかなり古いものだと思われる。
そしてその顔が(特に吽形の顔が)知り合いに似ている…
この記事を読んでいる方からすると「知り合いって誰かわからん」になってしまうが、似ている… ちなみにその人は「よく近所の犬に似ていると言われる」とよく言っていた。自分からすると近所の犬ってどこの犬だよって話になるので、記事を読んでいる方からするとますます内輪でよくわからん話になるだろう。申し訳ない。犬に似ている人間に似ているとアバウトに感じ取っていただければ自分としても満足だ。
それにしてもこのトサカのような角…
宇宙人系だな…
これはこれで系統を調べたくなった狛犬だった。
大野湊神社
大野湊神社(おおのみなとじんじゃ)だ
社紋はこちら
「洲浜紋に波」と呼ばれる社紋だ。
神社は金沢市寺中町にある。
海の近くにある森の中の神社だ。
社叢(「しゃそう」=神社境内を囲う林)は700年の歴史があり、古来から神域として保存されている。境内がかなり広く、境内社もいくつかある。
ここの狛犬は、地面に足がついているので、前編で紹介した野間神社のときと同じように果たしてこれを「逆さ狛犬」と呼んでいいのか定かではない。
「準逆さ狛犬」と呼んだほうがいいのかも知れいないが、それでも特徴的であったので「逆さ狛犬」と数えて紹介したい。
その狛犬だ
阿形、吽形ともにお尻を上げている。そして共に顔がほとんどない。
全体的に白く変色し、苔も生えている。
劣化の著しさから台座に刻まれた文字もまず読めなかった。
神職さんにどうしてこうなったのか聞いてみると、海が近く潮風によるものだろうと言っていた。どれくらい前からある狛犬なのかもよくわからないようで、とりあえず古いということだけしかわからなかった。
顔のアップ
もう原型すらわからない。
ひがし茶屋街の「菅原神社」では風習から頭を撫でられすぎて顔が半分削がれていた狛犬がいたが、それ以上だ。(菅原神社の記事は→こちら)
この大野湊神社の境内にいるすべての狛犬がこうかといえば、しかしそうではない。
境内にある白山社の狛犬
岡崎現代型で見るからに新しい。
と思えば、社のきざし(階段)を上がったところには…
こういうのも
このおかっぱ頭は「白山狛犬」の系統だろう。
さらにこの社(西宮社)でも…
ユニークな顔をした白山狛犬系がいる
このひょうきんさがかわいい。
さらには…
(準)逆さ狛犬も同じ場所にいた
後ろ足は地面についているがケツを上げているタイプだ。
この顔といい、野間神社のそれと似ている。
もう一つついでに、正面の大きな鳥居の近くにも…
大きな狛犬がいた
これら狛犬を見るとそれほど潮風による劣化は進んでいない。
どうして最初の顔なし逆さ狛犬だけがあんな風になってしまっているのか謎だ。
それだけ古いものだとそういうことになるのだろうが、境内にあった西宮社の(準)逆さ狛犬も古いはずなので、どれだけ古いんだという話だ。考えるとワンダーだ。
石浦神社
最後は石浦神社(いしうらじんじゃ)だ
金沢市本多町にある。21世紀美術館と道路を挟んで真ん前、兼六園とも道路を挟んで前にある神社だ。
自分にとって「金沢お宮さんめぐり」の36社目の神社がここであった。
最後のスタンプだ
ここには何度も来ているし、当ブログでも一度紹介している。いつでも来れると思っていたら最後になった。
境内にはウサギもいた
少し(一ヶ月ほど)来ていなかったうちに境内でウサギを静養させていた。
なんでも神兎らしい。本物のウサギだ。自分が見た限りでは2匹はいた。これ、動物好きにはたまらんな。
いつの間にか変わっているこんな石浦神社にも…
逆さ狛犬がいる
拝殿前に別の狛犬がおり、この逆さ狛犬は境内の稲荷社の前にいる。
ここの狛犬たちに関しては以前、当ブログでも取り上げているので詳しくはそちらに任せることにして今回は割愛したい。
ただし、案内板だけは考察のために紹介
ここの神社では「逆さ狛犬」に関する案内板も掲げられている。それによると「逆立ち狛犬」のことを「逆さ狛犬」と呼んでいる。
この定義に従えば、もしかしたらしっかりと後ろ足が宙に浮いているものでなければいわゆる「逆さ狛犬」ではないのかもしれないと、そう思えてくる。
もしそうだと言うなら、前編で紹介した野間神社やこの後編で紹介した大野湊神社の顔無しの狛犬も「逆さ狛犬」と数えることは出来ないだろう。
36社中10社ではなく、36社中8社に「逆さ狛犬がいた」ということになる。
実際自分も数えながら、野間神社や大野湊神社のものを含めてもいいのか、かなり迷った。迷った末にあえてそう数えることにして載せている。
ちなみに、迷った末にあえて数えなかった神社もある。
本当はもう一つ数えるべきか迷った神社がある
36社のうち、逆さ狛犬がいる神社として数えるべきか迷った神社がもう一社ある。
泉野櫻木神社(いずみのさくらぎじんじゃ)だ
金沢市泉野町にある。
普段だれもいないのかスタンプが置かれていない神社で、スタンプシートにも最初からスタンプが押されていた神社だ。
そこの狛犬が…
こちら
阿形、吽形ともにお尻を上げている狛犬だ。後ろ足は地面についたままだ。
格好だけなら野間神社などで見られたものと同じだ。
ただし、台座に書かれた文字を読むと「昭和三年四月」とあった。一応、戦前(戦後には狛犬の規格が統一されていく)だが、若いこともあって迷った。
さらには腰の上げっぷりが若干弱い。石浦神社の案内板に書かれた「逆立ち狛犬=逆さ狛犬」も考慮すると逆立ち、またはそれに近い「迫力ある尻上げ」にはなかなか見えなかった。
もし、これも逆さ狛犬に含めても良いということなら、「金沢お宮さんめぐり」で見かけた「逆さ狛犬」がいる神社の数は36社中11社ということになるだろう。
まとめ
前編、後編に渡って紹介した「金沢お宮さんめぐり」で数えた逆さ狛犬の数、いかがだっただろうか?
冒頭で36社中10社としながら、見方によっては8社かもしれない、いや11社かもしれないと、読者を混乱させるようなまとめ方をしてしまっているが、書いている自分も現段階では正確な「逆さ狛犬の定義」をわかっていないのでご容赦いただきたい。
わかっていないのにこうして掲載しているのは、問題提起のためである。
あの後ろ足を地面に着けたままの狛犬は「逆さ」ではないのか? ないのならなんと呼べばいいのか?
今後、自分でも調べていくつもりだが、そのあたりを誰か詳しい人が教えてくれないだろうか、こう期待して今回まとめさせてもらった。
そのことを白状して、今回の〆としたい。
追記
この記事を掲載後、人から教えてもらったところによると、後ろ足を地面につけたままお尻を上げているものを「構え獅子型」と呼ぶそうだ。
以前、自分も出雲狛犬と呼ばれている狛犬について記事内で触れたことがあったが、「出雲」には大別すると二種類あるようで、今にも飛びかかろうとしているもの(尻を上げたもの)を「出雲」(または「構え獅子型出雲」)と呼び、おすわりタイプを「丹後」(または「出雲丹後」)と呼ぶようだ。
前編で記した野間神社の狛犬などは顔も「出雲」系統なので「構え獅子型」で良いだろうと、そういうことだった。
これによって「逆さ狛犬」の定義も、石浦神社のような地面から後ろ足を離して逆立ちをしたものを指す、とすれば良いようだ。
野間神社、大野湊神社(泉野櫻木神社も)は逆さ狛犬と数えず、「金沢お宮さんめぐり」の36社中8社で逆さ狛犬がいたと結論付けたい。
いろいろと混乱させてしまって申し訳なかったです。
自分としては大変勉強になった。