能登地方には夏から秋に掛けて各地でキリコ祭りという伝統的な祭りが行われる。
輪島市にはそんな切籠(きりこ)を知れる「輪島キリコ会館」というミュージアムがあるので勉強のつもりで足を運んできた。
新しくなったキリコ会館へ
以前、当ブログにて輪島の国道249号線沿いにある廃れゆく建物の前に置かれていた狛犬を紹介したことがある。
その建物は元キリコ会館であった。2015年に近くのマリンタウンへと移転したことで現在使われていない。そんなところに残された狛犬の哀愁を感じ取り、いつかリニューアルオープンした方へも足を運んでみようと考えていたものであった。
能登町宇出津のあばれ祭りを皮切りに2018年の能登地方のキリコ祭りもいよいよスタートしたので、今回輪島市にあるその新しくなった会館も見にいってきた。
新しい会館だ(以前の写真)
足を運んだ7月7日(あばれ祭りがあった日)は、石川県でもたいへんな大雨で外から撮影することが叶わなかったので昔の写真で勘弁していただきたい。
玄関の自動扉にはこんなマークが
キリコが描かれている。そのガラス戸が水滴だらけになるくらい降っていた。
入ってすぐの受付前の様子
さっそく一台がお出迎えしてくれる。
後方には輪島の情報冊子の他に色んな人のサインも並んでいた。
館内は有料なので受付で支払うことになる。入館料は一般個人で620円だった(団体だと一人440円)。
JAF会員だとさらに割引もあった。
応対してくれた受付の方に撮影について尋ねると館内すべてOKと返事があった。
館長さんらしき方いわく「私の顔以外はすべてOK」だそうだ。
ユニークな方だ。
壁にも「写真撮影可」
記事としてまとめようとしている者からするとありがたい話だ。
ということで遠慮なくバシャバシャと撮ってきたので写したものを以下に並べたい。
1Fの様子
同館は三階建てになっている。
1Fにはキリコが展示され、2Fは1Fの延長のように空中回廊になっており、3Fは展望ロビーだった。
展示場の入り口
このマットレスを越えて入っていく。
展示されている場所は部屋というより学校の体育館のように広く、天井も高いところだった。
ズラッと並んでいる切籠
薄暗い場内でキリコが明かりをともしながらいくつも展示されていた。
「キリコ」って正式名称を「切子灯籠」(きりことうろう)と言うそうだ。
それが転じて「切籠」と書いて「きりこ」と呼ぶようにもなっている。
神輿の前後で照明と案内役として担がれるもので、能登だけで800基近くあるらしい。
人が担ぐものとしては日本最大級で、大きなものではビル4階分に相当するものもある。
釘は一切使っておらず、祭りが終わると分解されて保管されるという。
灯籠部分に書かれた文字は吉祥文字というもので、切籠ではほとんど3字だ。
こういった文字
真ん中にドカンと書かれた3文字がそれだ。
説明書きもあった
いくつかこのように吉祥文字の意味が解説されていた。
どれも祈りや願いが込められた文字のようだ。
中にはこんなのもありましたけどね
「まれ」と「希」と書かれたものが1基あった。
輪島市が舞台だったNHKの連続テレビ小説『まれ』(2015年)を記念して作られたものだ。
自分も石川県人なのであのドラマは録画しながら全部見てましたな。
太鳳ちゃんのサインもあった
『まれ』で主役を演じた土屋太鳳さんのサインだ。
そういえば彼女も作中だったかでキリコを担いでいましたな。
『まれ』作中で使用されていた切籠も展示されている
左から2基目の「不退転」と書かれたものがそれだ。
何事にも負けない不屈の精神で前進を図ることを意味する言葉だ。
ところで、その「不退転」の1基よりもさらにデカイものが数基、右側に並んでいるのが写真からわかるだろうか。
「まれ」のものを含め、これまで上げていた写真の切籠(場内に入って最初に並んでいた切子燈籠)たちはどれも輪島大祭で使用される現役のものだ。
町には電線があるのでそれにあわせて現代では切子燈籠も小さく作られている(その高さは4~6メートルくらい)。
ところが昔のものはそういった電線等による高さ制限がないのでかなり大きなもの(10メートル超クラスのもの)が作られていた。
「不退転」の右側に見える大きな切子燈籠たちはそういった古いものたちなのだ。
中でも「徳恩聖」と書かれたもの(大きなモノたちの中で一番左)は江戸時代のものらしい。
そんなに古いものでも残っていられるのはその切子燈籠が輪島塗で作られているからなんだとか。
輪島塗ってそれくらいもつものなのだ。
一番でかいのはこちら
「能登國」と書かれたこれがもっとも大きい。
その高さは15メートルもある。
ビル4階分に相当する高さだ。
全長も15メートル、全幅4.6メートル、吉祥文字の部分だけで6畳あるという。
その重さは2.5トン。
150名の担ぎ手が必要なんだとか。
キリコって前後の綱でもバランスをとるのだが、この大きさだとその綱を持つ人たちも大変そうだ。
担ぎ棒は樹齢200年の杉、本体も樹齢400年のあすなろの木一本からできていると言うから驚きだ。
能登國が建国して今年(2018年)で1300年になるので、そんな年にこの一基を拝めたことにちょっとした縁を感じる。
ちなみにその左隣の「志欲静」と書かれた1基は和倉のものだ。
和倉温泉駅の方(七尾市石崎町)の石崎奉燈祭ではいまでも100人くらいで担ぐような巨大なものが使われている。
2Fの空中回廊より
館内の2階は空中回廊なので部屋というより1Fの延長のようなところだ。
ここから上がる
スロープがあり、1階の会場を外側からぐるっと回りながら上っていくことができる。
おかげで裏面を眺めやすい
この通路からだとそれまで正面に見ていた切子燈籠たちを後ろから見ることができる。
キリコは「後ろ美人」とも呼ばれていて、その背後の絵、いわゆる「吉祥絵」も美しかったりする。
古くて大きのだとこういうのや
こういうのも描かれていた
とりあえずなんか強そうだ。
高さが低い現役のキリコだと1Fからでもその裏面を見ることができるのでここでそれらの写真も並べてみたい。
たとえば龍に
虎も
やっぱりなんか強そうだ。
そして灯籠の淡い明かりもあって艶があるように見える。
改めて2Fより
淡い明かりといえば天井近くには町の名が書かれた提灯も飾られていた。
館内の光量が上がったり下がったり、ときに青みを帯びたり赤みを帯びたりするので夕暮れから夜にかけて祭りの場に来たような趣がある。
ついでにいうならスピーカーからまつりの掛け声などもほんのりと聞こえてくる。
2Fからだとまた違った景色を撮れる
1Fでは撮れないようなポイントや構図も撮れる。
背がでかいですけど、なにか?
と言ってきそうな古い切子燈籠たちもこのように同じ高さの目線で撮影できるので面白い。
なお、空中回廊を歩き切った先にはこんな小部屋もある。
スクリーンシアターがあるスペースだ
ここで切籠の祭りの様子が描かれた5分くらいのビデオが流されている。
館内はもちろんエアコンも効いているので、祭りの映像を見ながらここでのんびりくつろぐのも良いかと思われる。
3Fの展望台へ
スクリーンシアターのスペースからちょっと進むとさらに3階へと上がる階段がある。
3Fは展望台になっているのでそこも見てきた。
順路とある
一緒に描かれているピクトグラム、館内の「順路」と書かれたところの脇で何度も見かけるのだが、そのうちそのシンプルさと格好が可愛く思えてきた。
3階に上がるにはこの階段以外にも1Fから上がってくるエレベータでも行けるので、階段はちょっときついと言う方でも大丈夫だ。
3Fに到着
エレベーター前から、写真でいうと左手にロビーがある。
1Fと比べるとスペースは広くない。
中の様子はこんな感じ
中央にある巨大なキノコみたいな形をしたものは輪島大祭の大松明だ。
年に一度、この炎で各町内のキリコが穢れを祓い清めるのだとか。
輪島大祭の一つ輪島市内にある重蔵神社の大祭では松明の明かりをたよりに舳倉島からやって来る女神と重蔵の男子が逢瀬し新しい神の誕生を願うそうだ。そのため安産などを祈願した絵馬が、この松明の周りにいくつもくくりつけられていた。
丸い絵馬だ
こういうのいいですな。
ついでにいうと重蔵さんというキャラもいた
お守りもあるらしい。
絵馬やお守りは1F展示場のさらに奥にある売店で買える。
また、この大松明はその売店からこの3Fに伸びていた。
下の方を覗き込むと売店が見える
この大松明、およそ16メートルあるそうだ。
一番でかい切子燈籠よりさらに大きいじゃないか。
輪島で伐りだされた杉で作られ、傘の部分は女神様の子宮、縄は御子神様の「へその緒」をなぞらえているとのこと。
その縄は通常とは逆方向に綯(な)う神事「九字切り縄ない」によって作られているそうで、九字とかけて「苦事もなく安産をいのる」とされているらしい。
展望台では他にも輪島の海女さんについて知れる展示もされていた。
輪島海女の道具などが展示
ほかにも…
輪島海女についてのパネル展示もされていた
輪島で海女さんは現在、約200人いるらしい。
1地域に住む海女さんの数では国内最大なんだとか。
天然わかめやあわび、サザエ、舳倉島の塩など収入安定のために漁獲物のブランド化も進めているようで、安産と併せてなんだか輪島の女性たちのたくましさがうかがえる。
さて、肝心の展望(この部屋から見える景色)であるが…
雨でした
こう撮るとちょっと空港ロビーみたいに見えるけれど、そんな大きなものでもない。
それでも山を眺め、海を眺めることができる。
水平線を沿うようにガスが伸び、それが掛かった山というのも、それはそれで乙でした。
能登地方のキリコ祭りでは雨が降っていてもやったりするところが多いので、この天気にも慣れろと神様に言われているような気もした。
まとめと地図
地図
以上、旧キリコ会館の前にいる狛犬を撮影したときから立ち寄ることが念願だった新・キリコ会館の中の様子だ。
入ってみると想像以上に巨大で迫力があって、かつ美しい切籠に見入ってしまい、気がつけば長い時間、館内にいてしまった。
1Fにはベンチもあるのでのんびり眺めてしまった
本番の祭りではあれらが人の手、自分たちの手で動き出し、町中を練り歩くと考えるとそりゃ興奮するし、市外や県外にいった地元民がその祭りにあわせて帰ってくるというのも頷けた。
特に1Fでは解説の音声(ときどき職員による場内アナウンス)も流れ、パネル等と併せて勉強になったことも多く、知れば知るほど切籠やその祭りに興味も湧いた。
あばれ祭り等、海外でも有名なもの以外でも能登のいろんなキリコ祭りを見に行きたくなったものである。
影も画になる
カメラを持つものとしては切子燈籠を撮影するだけでも楽しめた。
あれこれ角度を試して撮っていたので、本番の祭りに足を運んだ際はこの経験を活かせればと思う。