先日、輪島の朝市通りにある柚餅子のお店「中浦屋」に立ち寄った際、歴史の長い「丸柚餅子」という和菓子も購入してきた。
菓子だけではなく料理にも使われるその丸柚餅子をチーズと試したのでその味の感想を記したい。
中浦屋で丸柚餅子を購入
先日、輪島プリンを「中浦屋」にて購入した際、柚餅子の総本家らしく柚餅子(ゆべし)の味見も促された。
(輪島プリンの米味を食べた記事は→こちら)
何それと思われる人もおられるかも知れないので説明すると、「ゆべし」という柚子を使った和菓子があるのだ。
ユズに餅ダネを詰めて作る羊羹のような、干し柿の様な、ちょっと食感が変わっている菓子だ。
輪島独特のものらしい。
店内で試食ができる
このように試食セットが置かれていて、レジで会計をするときなどに促されるのだ。
三種類ほどある。右から玉柚餅子、棹柚餅子、そうして左端のものが丸柚餅子だ。
左から右にゆくほど色が薄くなっている。
口に入れてみると、左から右にゆくほど、歯ごたえが柔らかくなっていった。
右端のものなどはまるでグミのような食感だった。
食べやすさの順も右に行くほど高くなるのではないだろうか。
これもまた個人的な経験だが、贈呈される和菓子として出会う確率が高いのも、その柔らかい玉柚餅子の方で、左に行くほどあまり食べたことがないと思った。
この食べたことがあまりないというのが、自分の天の邪鬼を刺激する。購入したのもよりクセのある丸柚餅子の方であった。
丸柚餅子を切る
購入した丸柚餅子、決して安くはない。
大きさは特大、大、中とあり(なんでも小サイズというものもあるらしい。自分が行ったときには置かれていなかった)、自分が買った「中サイズ」でも一つ2200円(税抜き)していた。
その大きさもユズ一つ分くらいだ。
こちらがその中サイズの丸ゆべしの箱
箱から上品だ。
箱の内側には柚餅子総本家「中浦屋」の判
どこかのまがいものではなく、中浦屋が作ったものだとしっかり示してくれている。
なんかそこに、いいものを作っているというプライドのようなものを感じる。
一つのユズの中身を抜き取り、丸い皮だけとなったその中に「餅ダネ」を詰めて蒸し、約半年間、自然乾燥して熟成させて作られる。
ものすごく手間がかかっている。そのせいで一年に一度しか製造できないそうだ。
こちらが丸柚餅子
琥珀のような飴色の和菓子だ。
見るからに熟された色をしている。
少し平たくなっているものの、ユズの形も残っている。
どことなく干し柿みたいな印象もあるが、先程も記したように、中身を切り抜いて残した皮に餅ダネ(ユズ含む)を詰めてできた菓子なので、ユズだけでできているわけではない。
箱から取り出すと柚子の香りが静かに広がる。
静かと表現したのは、気がついたら部屋の片隅でユズの香り空間を作っていたからだ。
いい匂いだ。
箱には食べ方などが書かれた紙も入っていた。
それによると経日によって硬くなるそうなので、召し上がり方に合わせてカットした後に炙ったりソテーしたり、レンチンしたりして微加熱してもちもちの食感を取り戻すと良いそうだ。
また、切り方も載っていた。
まずヘタ部分を切るといいそうだ
次に真ん中でザクッ
さらに半分にして…
四等分にしてしまう
これが基本的な切り方だ。
ここからさらに使用目的に合わせて細かく切っていく。
その例もいくつか載っていた。
例えば短冊切り
基本的な切り方で四分の一になったもののうち、端っこの2つをさらに短冊のように切っていく。
断面図
好みで大きさを変え、サラダやチーズに合わせたり、茶碗蒸しに使うときにオススメの切り方と書かれてあった。
この丸柚餅子、ただお菓子として単体で食べるだけでなく、茶碗蒸しやお吸い物と言った日本料理の食材としても活躍してくれるという。
お吸い物用に…
銀杏切り
花開いたみたいになるので切っていて楽しい。
こちらは細切り
先程、短冊切りにしたものをさらに細かく切っていった。
おひたしとか、和え物、酢の物に使うときはこの切り方が良いらしい。
というか、そういうものにも使えるようだ。
想像以上に用途がいろいろとあって驚きだ。
とりあえず単体でいただく
しばらく冷凍庫に入れていたので、やや固めであったが、マイナス10~7℃くらいの冷凍だとカチカチになることはない。
口の中に入れてみると舌の上で体温によって溶け、モチモチとした食感と柔らかいユズの香りが広がってくる。もちろん甘みもある。それでいてほのかに苦味もあって一筋縄ではいかない。
お店で味見したときは次々と頬張ってあまり気づかなかったけれど、モグモグするほど味が深くなってくる。
これ、美味い。癖になる味だ。
チーズと食べる
和食の食材としても使われるなど、お茶請けのように単体で食べる以外にも用途の多いこのマルユベシを自分はチーズと合わせて食べることにした。
理由はチーズが大好きだからだ。
チーズを乗せるだけなのでアペタイザー(オードブル)のようなものだ。
買ってきたチーズは2種類。
ただし、チーズ専門店に立ち寄れなかったので、スーパーで売っているものを今回は使わせてもらった。
一つはゴルゴンゾーラ ピカンテ
青カビで熟成されたブルーチーズ。イタリア産だ。
もう一つは花畑牧場の「生カマンベール」
酪農家でタレントの田中義剛さんの牧場のものだ。北海道産だ。
まずはピカンテの方から
ブルーチーズは単体で食べると塩見が強く、辛いと感じることもある。
こうして一緒に食べてみるとマルゆべしの甘みがブルーチーズの辛味を和らげてくれていた。
ブルーチーズの辛味が駄目だという人にはまだ食べやすくなっただろうか。
続いて生カマンベールと
こちらのチーズはレトルト殺菌していない生きているチーズで、経日で熟成され続けるからさらにクセが強い。
塩分の辛味もあるしニオイもそれなりあるだろうか(自分はそのニオイが大好物)。
それだけ強いだけに不安もあったが、こうして一緒に食べてみるとまさかのハーモニー。
どちらかがどちらかを包み込むような中和的な調和とはまた違い、互いにそれぞれの苦味と甘みと塩の辛味を際立たせて、別の新しい味を生んでいるような、そんなハーモニーだ。
自分で合わせておきながら、何だこれは!と、そのクセがあるのかないのかもよくわからない不思議な味わいに驚いてしまった。
これは美味いのか?不味いのか?と一瞬首を傾げてしまうほど。
でも次にはダブルで乗せてしまう自分
その訳のわからなさが面白く、ついついまた食べてしまう。
更にはサンド
生のカマンベールチーズがとろけているところも、やや硬いユベシとは違う。
タイプの違う曲者同士をこうもバクバクと食べてしまうのは、結局、自分の舌に合うからだった。
普通の人からすると「クセ+クセでクセありすぎ」かもしれないけど、美味いのだ。
自分は好きだ。
ちょっと食べ物で遊んでしまったような格好ながら、ごちそうさまでした。
まとめ
一番人気は玉柚餅子、丸柚餅子は古来人気とのこと
丸柚餅子、ただ甘いだけでなくほろ苦さもあって、よりお菓子らしい玉ユベシや棹ゆべしと比べると、今どきの子どもたちには食べやすいと感じない独特の味をしているかもしれない。
歴史は長く530年くらい前からあるようだし、その頃のものはもっと塩辛いものだったらしい。加賀藩時代に洗練されて今の味として継承しているというから、今どきの味ではないことは確かだ。
今どきの言葉でいうと「クセがある」。
ただし、そのクセが好きだという変人、お酒の味がわかる大人には、「クセになる」味だろう。
口の中の温かさでよりモチモチしてくる食感がまた美味い。
そんな曲者な食べ物だけど、いろんな和食、洋食にも使用できるというから食というのは奥深い。
今回は負けず劣らないクセ持ちのナチュラルチーズと合わせてみたが、新しい味が舌の上で生まれた感覚があったので、この試みは自分の中で成功であったと思う。
切り取ったヘタ
この絵面も、なんか面白みを感じてしまった(要するになにか癖を感じた)。
なお、もともと保存食として用いられていたようで、店員さんいわく冷凍すると一年間は持つという。
癖があったり、いろんなものに合わせられたり、保存がきいたり、昔からある食べ物っていろいろすごい。
いいものに出会えたと、そう思う。