石川県の七尾から穴水まで走る「のと鉄道」はかつて穴水よりさらに奥能登へと続いていた路線があった。
廃線となったその路線のかつての駅が現在どのような姿になっているのかふと気になったので、一つ一つ確かめにいきたいと思い立った。
「廃駅の旅」である。
そのスタートとして、このたびかつての「能登三井駅」へと足を運んできた。
のと鉄道の廃止路線
石川県などが出資している第三セクターの「のと鉄道」は現在、七尾から穴水まで走っている。
七尾線と呼ばれる路線であるが、かつては穴水からさらに輪島まで走っていた。
ほかにも能登線というものもあった。そこは穴水から珠洲市の蛸島まで続いていた。
過疎化やモータリゼーション(自動車の普及)などの理由から、七尾線の穴水から輪島まで(通称「輪島線」)を2001年に、穴水から蛸島の能登線を2005年に廃止している。
もう14年以上前の話だ。
イベント等で奥能登方面へと足を運ぶと、廃駅となったかつての輪島線、能登線の駅が道の駅やアートなどで再活用されているのを目にしたりもする。
道の駅になっている輪島駅などがその際たるものだと思われるが、奥能登方面出身の知人が言うには、そう再利用されているところはまだ恵まれたほうなのだそうだ。
それ以外の廃駅は現在どのような状態なのか、何かに利用されていないのであろうか、そう気になったことが、この企画「廃駅の旅」の始まりである。
旧「能登三井駅」へ
旧輪島線(七尾線の穴水~輪島間)にはかつて4つの駅(穴水駅含む)があった。
旧能登線(穴水~蛸島間)には30の駅(穴水駅含む)があった。
廃駅の数は3+29で計32だ。
今回、この企画を始めるに当たり、どの駅から足を運ぶか考えたわけだが、旧輪島線が3つと極端に少ないので、その路線から始めることにした。
旧輪島線の廃駅の3つは穴水駅方面から見て「能登三井駅」「能登市ノ瀬駅」「輪島駅」だ。
穴水から一番近い「能登三井駅」をスタートにすることにした。
グーグルマップでチェックすると、能登三井駅跡として見つけることもできた。
地図
まだちゃんと載っているのだ。
これによると三井町の「長沢」という地区にある。
車のナビでその地区を目的地にして進むと自分もたどり着くことができた。
輪島市三井町長沢の通り
田舎の住宅地だ。
県道1号を走って道中細い道を左折してたどり着くので、ナビがなければわからなかったと思う。
おまけにあまりに住宅地なので駅があるような雰囲気でもない。
でも、この通りを走っていると「三井駅前」と書かれたバス停も見え、その側に駅舎のようなものも目にできた。
駅舎だ
まだちゃんと残っていた。
看板も残っていて、それによると「能登三井」は「のとみい」と読むようだ。
恥ずかしながら、自分はここにくるまでずっと「のとみつい」だと思っていた。
入口の方には、ダートコーヒ&営業中と書かれた看板も見えた。
駅舎が残っているだけではなく、なにかに活用されている雰囲気が伝わってきた。
さらに近寄ってみると「駅カフェ」の文字
中でカフェを営んでいるようだった。
入り口脇にも駅カフェと書かれたオブジェ
なんかかわいらしい。
営業中の看板が置かれていても店じまいしていたなんてケースもある。
オブジェがキレイにされているので、現在も営業しているのではと、そんな期待がにわかに膨らんだ。
というか、こういうのを目にすると入らずにはいられない。
ということで入り口のガラス戸を開けてみた
そのガラスには「あけたらしめる」とも書かれていた。
何でもツバメが入ってくるらしい。
開けて駅舎に入ってみると、左手に文庫本が並んでいた。
何故かトイレットペーパーも
そしてその脇に「営業中」と吊るされた扉も見えた。
明かりもついていたので、間違いなくやっているなと確信を持てた。
なお、入って右手には公衆トイレもあった。
利用している人もいたので、そこからもこの駅舎が忘れ去られたところではないことがわかった。
駅カフェへ
駅舎の写真を撮っていると、カフェから女の方(自分の親世代くらいの人)が現れて話しかけてくれた。
この駅や駅舎について色々と教えてくれて、さらにはカフェ内の撮影も快くOKしてくれた。
駅カフェの中の様子
決して広くはないけれど、10人くらいは確実に座れる。
なんだか田舎の家に帰ってきたような、そんな親しみと落ち着きのある店内であった。
駅の名残
「のとみい」と書かれた柱が残っていた。
この駅をむかし利用していた人からすると懐かしいだろうなと思う。
窓からはむかしのホームの名残も
通りとは反対側にある窓を覗くと、このように駅のホームがあった場所を望める。
線路はさすがにもうない。
今では芝が敷かれていて、駐車場も整備されていた。
ちなみにこの窓の脇に勝手口もあり、そこからこのホームの方にも出れる。
出るとこのようにベンチやソファが置かれている
カフェの勝手口以外からも、建物をぐるっと回ってこちら側にやって来ることもできる。
駐車場も芝も結構広い
この芝の上では、現在、定期的に地元の人達がグランドゴルフをしているそうだ。
いまでは写真真正面奥に家が建っているけど、ここにかつて線路が走っていたという。
芝とコンクリートがキレイに整備されていて、民家も並んでいるし、線路の面影はあまりない。
でも、当時から家々の側を線路が走っていたとのことで、電車に乗っていると駅の近くの家々の食卓なんかが見えたそうだ。
駅舎の方から見るとまだ駅のホームっぽい
ホームへと上がっていく小さな階段もあり、さらに奥には駅名標も見える。
当時の駅舎からホームへと進む光景がぼんやりと浮かんでくる。
残っていた駅名標
これもまた駅の名残の一つだ。
穴水の次の駅で、その次が能登市ノ瀬だということもよくわかる。
この駅舎裏側のベンチやソファにも腰掛けて、かつてホームのあった方向を眺めていると、実に長閑であった。
ちょうど天気も良くて、そこでカフェしていいかとお店の方に聞いてみたら、快くOKしてくれた。
ちなみにメニューはこちら
駅カフェのメニューには、コーヒー、紅茶、昆布茶の3種類があった(どれも一杯300円)ので、自分は昆布茶を選んだ。
カフェで昆布茶って珍しい。
輪島は昆布やワカメなんかもとれて美味いので、メニュー表を目にしたときからこれを飲みたいと思っていた。
こちらが昆布茶
ありがたいことにチョコレートやスナック菓子も添えられていた。
これらを…
こんなロケーションでいただく
天気もよく、風も適度に吹いていた日なので座っているだけで気持ち良い。
そこで頂いたこの昆布茶がまた美味しくて、少し口にしただけで「うめぇ」と声にしてしまった。
濃さが違うというか、昆布の旨味成分を濃縮したようなもので、そこに絶妙に塩味も効いていて、さらには適度なヌメリもあって喉越しが面白かった。
何杯でも飲みたくなる代物だった。
自分は昆布茶を飲んだの随分と久しぶりだったけど、思い描いていた味を遥かに超えるものだった。
ほんと、美味しかった。
雲の流れを感じられる時間だった
のんびりとできる、いいところだった。
季節が秋で、山もすぐ近くにあるところだから、カメムシなんかも飛んできたけど、リラックスのできるところだったので、また来たい。
まとめ
記念の一枚
廃駅の旅、一発目の「能登三井駅」は、その駅舎がまだ残っていて、中では駅カフェが営まれていた。
長閑なロケーションで、昆布茶も絶品なところだ。
駅の名残の駅名標もいくつか見られて、駅や列車好きの心もくすぐるのではないだろうか。
もちろん、この駅や路線をかつて使っていた人たちからしても、懐かしさを感じられる場所であると思われる。
お会計をするため駅カフェの中に戻ると、常連っぽい地元のお客さんの姿も見えた。
やはり自分の親世代くらいの方だった。
地元の人達からするとサロンのようなところになっているようだ。
ただ、女将さんが言うには、駅舎そのものは、電車が通っていた頃はもっと大きかったそうで、残っている駅舎も潰してなくしてしまう話も出ていたそうだ。
駅カフェをやるからということで、残してもらったという。
長閑でいいところだけど、なくなっていくリアルもあるのだ。
一発目から考えさせられる旅であった。
この記事を偶然目にした人が、何かの気まぐれで能登三井駅に足を運び、そういった人が増えて三井駅のみならず、この町に少しでも活気が戻ればこのような企画を始めた自分としても幸いである。