珠洲市の奥能登国際芸術祭2020+で目にした作品の紹介、第三日目その14だ。
今回は少し飛んで若山エリアにある「チームKAMIKURO」の作品をまとめたい。
- 旧上黒丸小中学校にある43番「チームKAMIKURO」作品
- 中瀬康志『上黒丸 座円 循環 曼荼羅 壱』
- 土井宏二『更新される森』
- 坂巻正美『上黒丸 座円 循環 曼荼羅 参― 行雲流水 上黒丸○』
- 宇土ゆかり『ちいさなものがたりがかり』
- 竹川大介+野研『上黒丸 座円 循環 曼荼羅 弐』
- 感想
旧上黒丸小中学校にある43番「チームKAMIKURO」作品
前回の正院エリアの作品から少し飛んで、若山エリアに向かった。
山の方にある若山エリアの中でももっとも山手にあるのがチームKAMIKUROの作品だ。
そのユニット名からわかるように上黒丸で活動しているチームで、展示場も旧上黒丸小中学校になっている。
2017のときもこの旧小中学校で中瀬康志さんの作品が展示されていたが、「チームKAMIKURO」にも中瀬さんが参加している。
チームとあるように中瀬さん以外にもメンバーがいて、計5人の作品が展示されていた。
久しぶりの旧上黒丸小中学校
2017のときはここで演劇や舞踏も行われていて、それらも鑑賞しに行っていたので何度か足を運んでいた。
ここもまた懐かしくさせてくれる場所だ。
この日はあいにく天気が急転して自分がここに向かったときには奥能登方面だけ台風のようになって大雨となっていたので、山道を進んでここまでたどり着くまで正直怖かった。
着いても雨がやまず、しばらく車の中で待機していたくらいだ。
受付は展示場所である体育館に入ってすぐのところにあり、こんな辺境の地にようこそといった具合にボランティアの方もいろいろと教えてくれた。
先にも記したようにここでは5つの作品がある。
以下、順に紹介したい。
中瀬康志『上黒丸 座円 循環 曼荼羅 壱』
3つの案内板
体育館に入ってすぐ左手にこれら3つの案内板が貼ってある。
体育館のコート上にこれら3つの作品が展示されているということだ。
上から見たコート
こんな感じに作品が展示されている。
そのうちの中央の円柱形のものが中瀬康志さんの『上黒丸 座円 循環 曼荼羅 壱』で「上黒丸宝塔」というそうだ。
そびえ立つ塔のように
高さも人間の3倍近くあろうか。
体育館に入ってまず目に入るのがこれなので、かなりインパクトある。
住民から集めた板材で作り、住民の記憶が残っている品物が入れられ乗せられ、周りには住民が入らなくなった山々から移植した植物も並べられて、体育館が上黒丸の記憶の容器のようになっているんだとか。
色んなものが乗っている
紙細工の置物だったり地球儀だったり皿だったり写真だったり、地域の家々にあったものが置かれている。
ぐるっと見て回ると色んなものが置かれている
中には訳のわからないものも置かれている。
何だこれは
鳥カゴのたぐいだろうか。
長らく放置されていたのか蜘蛛の巣なんかも残っている年季の入ったものだ。
これも住民の何かしらの記憶というものになるのだろう。
球だ
何の玉か知らないけどスチール製と思われる古びた玉も置かれていた。
何に使われていたのか、この玉の記憶を勝手に想像すると、戦時中のものだったり、競技用のものだったり、娯楽用だったりといろいろと浮かんでくる。
品物それぞれの歴史なり記憶なりを鑑賞者が勝手に空想していいというのなら、この塔、なかなか面白い。
また、塔みたいな棚の外側だけではなく内側にも棚が設けられている。
内側へ
内側は写真なんかも多かった。
古い写真もあり、まさに地域の記憶だ。
この地球儀、いい味出てる
アンティークとして一つ欲しくなってくる。
「脱皮」の文字が強烈に印象に残る
誰かの中学生か小学生時代の版画作品だと思うけど、人生の教訓として大人になっても響く言葉なんじゃないかと思われる。
子供の頃の何気ない記憶や記録が、大人になって支えになったりする。
これら塔のような棚にはそういった正のエネルギーが集約されているのかもしれない。
これは… 負のエネルギーじゃないよね
こんな下の方に隠れているんだもん、笑ってしまったよ。
奥能登国際芸術祭2017のときの写真
2017のとき、この旧上黒丸小中学校に置かれていた作品だ。
市外の人間だけど自分としても懐かしい。
小学生たちが「元気を分けてくれ」ってな感じで元気を集めているみたいで、やっぱり正のエネルギーだと思う。
土井宏二『更新される森』
土井宏二さんの「更新される森」は体育館の内側と外側にある。
本記事最初の体育館前の写真ですでに写っていた、地面に不規則に落ちている大きなドングリみたいなものがそれだったりする。
これだ
上黒丸の森を、土の彫刻でこの旧小中学校に現出させているそうだ。
ドングリみたいなこれだけど、その大きさは実際のドングリの比ではない。
人が抱えるくらいの大きさで、小さな子どもだと持ち上げられないんじゃなかろうか。
体育館内にも置かれている
一つ一つ形も色も違っている。
上から見ると「上黒丸 座円 循環 曼荼羅 壱」に続いているよう
「上黒丸 座円 循環 曼荼羅 壱」の森から移植した木々に繋がっているかのように見え、種から木々への成長を目にしているかのようである。
こうやって森は生まれ変わり続けているんだと教えられているようで、木々の成長はたくましく、その流れからここでもエネルギーの集約を感じ取ってしまう。
坂巻正美『上黒丸 座円 循環 曼荼羅 参― 行雲流水 上黒丸○』
曼荼羅シリーズ2の前に「参」を先に紹介したい。
これも体育館内にあるからで、続けて目にしたからだ。
体育館のステージにこんな地図が
懸垂幕を並べたデカイ地図が設置されていた。
その一部が白地図になっている。
この作品、芸術祭期間中に同時開催されているワークショップで、森の古道を散策しながら足跡による巨大な円相を描く作品なのだとか。
この白地図に歩いた円相の跡が印されていくようなのだ。
ワークショプに参加する際は実行委員会事務局に問い合わせるといいようだ。
散策中と思われる映像も流れていた
こういう参加型嫌いじゃないし、むしろ好きなんだけど、これはこの日飛び込みですぐにできるようなものではもちろんない。
事前に準備も必要だろうし、天気にも左右されるんじゃなかろうか。
モニター隣の白地図には確かに赤い円がいくつか印されていた。
外には散策コースと思われる地図も
登山の経験がない自分としては冒険になるだろう。
もっと早い段階(9月くらい)で知っていればと悔やまれる。
ちなみに坂巻正美さんは2017のときに「上黒丸 北山 鯨組 2017」という作品を出されていた方だ。
あの作品から続いているものがあるのかもと思うと参加してみたくなった。
宇土ゆかり『ちいさなものがたりがかり』
体育館を入って左手、舞台のある方へ進んでいくと宇土ゆかりさんの『ちいさなものがたりがかり』という作品がある。
ここだ
舞台のバックステージがミニシアタールームのようになっていて、上黒丸で暮らす方々の日常にある物語を映像化した「小さな映画」をそこで上映していた。
入ってすぐは…
インタビュー映像
ちいさなものがたりをこうして集めていたようだ。
この部屋から舞台の真裏の通路に行ける
暗幕をまくって進むと通路がある。
ここが舞台の下手(しもて)側だとすると、その通路を通って上手(かみて)側に行ける。
その通路
こういう舞台裏って、あまり通ったことがないので、役者や舞台関係者の気分になれたようでちょっと興奮した。
上手側の部屋に到着
ここでもプロジェクターを使って映像が流れていた。
こちらは物語の本編だ。
冒頭
「すもう」
という作品名だ。
ほかにも…
「あまごい」
と言う名の作品もあった。
他には「なす」「まど」「やまいぬ」「やまふじ」「てんぐさん」「いわし」「おつきさま」「かねじゃく」「きつね」そして「くじら」という併せて12作の小さな物語が繰り返し放映されていた。
一つの物語はそんなに長くない(3分くらいだろうか)。
どれも地元の方々が出演している、地元民にはツボるであろう、都会の人からするときっとシュールな物語だ。
県民で且つ奇特な自分などは12作すべて目にしてしまった。
学生時代、放送研究会と言う部活に入ってミニドラマとかを制作していたりしていたけど(あくまで素人レベルで)、久しぶりに自分も映像作品を作りたくなった。
役者が素人でも「画で見せ音で語る」をモットーに作っていたなぁと、勝手に懐かしくなる。
みなさん、いい表情をする
BGM次第で泣ける物語にもなりそうですな。
竹川大介+野研『上黒丸 座円 循環 曼荼羅 弐』
5つ目
最後の一作品『上黒丸 座円 循環 曼荼羅 弐』は外にある。
車を停めていた時点で目にしていたもので、写真にもすでに写り込んでいる。
こちらだ
なんとなくどこかで目にした趣だ。
それもそのはずで作家の竹川大介さんは2017でも「スター★ドーム」を制作していた方だ。
南山の水のドームでは似たようなドームが置かれていた。
足湯のあったところで、自分も利用しているから強力に記憶に残っている。
(2017年に水のドームを楽しんだ際の記事は→こちら)
ドームの中には優雅なベンチが
これ、中に入ってくつろげる代物なんだね。
あいにく天気が悪すぎてぬかるんだグラウンドは侵入を阻止する山のトラップのようであったので、憩えるなんて全く出来なかった。
普通のベンチが置かれているドームも
このドーム、よく見ると五芒星で出来ているんだね。
内側からの景色も撮りたかったし、大雨がなければともっと観察できていただろう。
気分だけでも内側より
ドーム内に入ったわけではないが、内側にいるような雰囲気の写真は撮れた。
ここでのんびりお弁当とか食べたくなる。
照明器具あり
このドーム、夜になると光るらしい。
案内板にも夜間鑑賞が18時から21時となっていた。
そんなもので日が暮れてからまた来た
ホタルの光のようにぼんやりと光っている。
近寄ってみると草が燃えるように光っている
これはまたキャンプファイヤーにも似た落ち着きをくれる明かりだ。
ほんと、天気が良ければこのドームの中に入ってこの明かりで足元を照らしながら、空を見上げて満天の星を眺めていたんだろうけど、あいにくの天気でそれが叶わなかった。
自分は、晴れ男じゃなかったようだ…
感想
旧上黒丸小中学校にあったチームKAMIKUROの作品、一箇所に5つの作品もあったのでボリューミーだった。
特に映像を全部見ているものだから、1時間近くはこの場所にいたのではないだろうか。
大谷エリアの「スズ・シアター・ミュージアム」でも長居したけど、あそこがまだ都会的に見えるくらい、こちらは田舎や山の味わいが強いところだった。
そんなもので、時間を忘れてしまうくらいのんびりできてしまう。
今回も無人販売あり
平和だ。
信頼がないと成り立たないよ、こういう商売。
今じゃ無人のコンビニが実験されているけど、これ、その先駆じゃないかと思う。
さいはての田舎で販売様式の最先端を目撃したようである。
山なので天気も変わりやすいけど、喧騒に疲れているならそれらを忘れてしまえる、ある意味癒やしのスポットだろう。