このエリア2つ目に鑑賞した田中信行さんの「触生」を紹介したい。
旧島崎家へ
今回紹介する作品は前回紹介した旧蛸島駅にある作品の近くに展示されていて、駐車場も共通なので、二つの作品の間を歩いて渡る形となる。
展示場所の旧島崎家は二年前の2020+でも展示場所となっていたところなので、自分としても迷うことなく向かえた。
たしか2020+のときも田中信行さんの作品だったはずだ。
ここだ
2020+のときは玄関前にテントのようなものが置かれていてそこで受付をしていた思うのだけど、今回2023ではそういったものはなかった。
幟旗や作品看板があるのでまだわかるものの、こうしてみると普通に民家なので、初めて来る方はここが展示場所なのかパッと見、分からなかったかもしれない。
ここ旧島崎家は北前船の廻船問屋をしていたところだったはず。
家屋そのものは江戸時代の後期からあるとのことだから、すごい。
当主はもういないけど、県外に嫁いでいた娘さんが前回の2020+のときに戻ってきていて旧島崎家の思い出の品や古民具も展示してくれていたのを覚えている。
この正面の道路を挟んで反対側には蔵もあり、そこでも前回、田中信行さんの作品が展示されていた。
今回、蔵の方での展示は、なさそうだ
というか、蔵の斜め右に位置する家屋の損壊ぶりが半端ない。
破壊力の凄さが一目瞭然で、胸が痛くなる。
こういった場所で芸術祭を行っているのだ。
しかと観たいものである。
22番 田中信行「触生」
22番だ
田中信行さんの「触生」だ。
田中さんは金沢美大の先生だった方で、現在も金沢市に在住している。
奥能登国際芸術祭には第一回目である2017から参加しており、これで3回めだ。
2017のときのタイトルも「触生-原初-」であったので、今回はその続編のようなものだと、この段階で受け止めた。
玄関の戸が閉まっているので少し分かりづらいが、戸を開けて入っていくとすぐ受付だ。
受付の正面には小物の販売も
玄関入ってすぐ右手に受付、反対の左手にこのように組子細工の小物が販売されていた。
漆だけではなく今回は組子細工も推しているようで、この会場では漆体験と組子細工体験ができる催しもやっていた。
このように
自分もやってみたくなったのだけど、日にちが決まっていて10月8日(日)と10月15日(日)の2日だけだった。
この日は10月7日(土)だったのだ。
う~む、残念。
その隣にはこのような部屋も
ここには上がれないのだけど、2020+のときにも観た絵も置かれていた。
島崎家の方々の思い出の品だろう。
展示というほどのものではないが、久しぶりにこれらも目にできて「帰ってきた」感があった。
そして一番奥にはこのようなボードが
今回の作品の説明だ。
これによると今作のタイトルは「触生-赤の痕跡-」というらしい。
「触生」シリーズ、これでいくつ目なんだろうか?
作品はこの一番奥の部屋にある
ボードが手前に置かれたこの部屋の入り口には暗幕も下りていた。
これからも分かるように、中がかなり暗い。
写真撮影に難がありそうで少し不安になるが、こういったことは前回2020+で蔵の中で鑑賞したときもそうだったので慣れている。
初心者なりに、なんとか撮ってみせようじゃないか。
いざ、勝負。
これが「触生-赤の痕跡-」だ
乾漆で出来た立体造形物で、黒と赤が潤いを持って妖しく闇に浮かび上がる。
その質感から造形物でありながら生物のようにも見えてくる、不思議な物体だ。
赤地の黒いシミを観ていたら顔のようにも見えてくるから、恐ろしいやら、それでいて温かいやら、人によってもいろんな見え方がする作品だと思う。
自分はこの写真を撮るのに何回もシャッターを切っているが、載せるのはこの一枚でいいと思っている。
この「触生」シリーズは敬意も込めて一枚勝負が一番しっくり来る。
一期一会の感覚もこの造形物には感じるからだ。
2017から田中信行さんの作品を三回撮り続けて、その経験から得た自分なりの一つの回答だ。
初心者なりに、ちょっとワビサビっぽく撮れたかと思う(まだまだフォーカスとかが甘いんですけどね)。
感想
奥能登国際芸術祭2023での田中信行さんの「触生」、いやぁ、いい勝負が出来た。
田中さんの作品、特に暗闇の中に展示されているものは「静かな迫力」があるので、カメラを構える者としては撮ると言うより勝負という言葉を使いたくなる。
あの宇宙にも似た乾漆の世界、その凝縮を撮るのはやはり難しい。
被写体としてはシンプルなだけに、撮る側の上手い下手がよく出てしまう。
フォーカスの問題もあるので、許されるなら三脚を持ち込んで撮りたくもなった。
帰り際に組子細工を一つ購入
体験できないなら出来たものを購入しようということで買った。
一つ1000円。
実用的な鍋敷きだ。
木の香りがものすごく良くて、いまでは鍋だけではなく、スマホや本を置くために机の上に常時置いてある。
購入の際にこれを作った建具職人さんとも話ができたし、2020+のときに島崎家のことを話してくれた当主の娘(自分よりずっと年上)の方とも久しぶりに話ができたし、そんなところでも一期一会に味わうことが出来た。
近所の大地震の傷跡には心痛めたが、それでも芸術祭を開いてくれる珠洲の人たち、それに関わる人達に心温まったものである。