9月3日より石川県珠洲市では「奥能登国際芸術祭2017」が始まった。50日間開催され続ける芸術祭だ。
国際芸術祭は全国いろんなところで行われているが、奥能登の珠洲市で行われるのは今回で初めてだ。
「こんなところで?」と思う方もいるかもしれないが、珠洲市は「日本列島の中心」もあったりするところなのであなどれない。むしろそんな能登半島の「さいはて」珠洲市で行うからこそHOTだろう。
美術館やアート好きの自分としてもずっと楽しみにしていたので、このたび開催初日である9月3日にさっそく足を運んできた。
その様子を当ブログでも紹介していく。ただ、数も多く1日で回ることは不可能であったので、時間を掛けてのんびりと小出しにしていきたいと思う。
宝立エリアより足を運ぶ
奥能登国際芸術祭2017はパフォーマンス含めアート作品が39種類あり、それらが珠洲市全域に散らばっている。
公式HPの地図を参照
自分は、珠洲市の中でも南の方に位置する、見附島のある宝立地区から反時計回りに珠洲市の海沿いを回るルートを選択した。
39種類のアートにはそれぞれ番号も振られているが、その番号で見ると、33番目から1番目へと逆にまわっていくようなルート(珠洲市中央部にある34から36、イベントである37から39は後回し)だ。
33番目は見附島にあるので、初日は朝から見附島へと向かった。
33番 リュウ・ジャンファ「Drifting Landscape」
いきなり雨だった
33番の案内が雨で濡れている。
この日の天気予報では降水確率10%の晴れだったのに、見附島ままであと10kmくらいのところでいきなり豪雨に見舞われた。あれ、ゲリラ豪雨と言うやつだろうか。
もちろん傘など持ってきていない。「まじか…」とテンションをいきなり削がれて地元のスーパーの駐車場でしばらく休憩したくらいだった。
休憩後、見附島に到着したときにはなんとか雨はやんでいたのだけれど…
空は見事に曇っていた
軍艦島こと見附島もこれではなかなか写真映えしない。
なお、写真の鐘は今回のアートではない。こちらは国際芸術祭関係なくずっとある「えんむすびーち」の鐘だ。カップルがよく鳴らしている。
天気は悪いが、それでも雨が降っているわけではないので、屋外にある33番のアート作品「Drifting Landscape」を撮ることにした。
この奥能登国際芸術祭のアート作品はどれも基本的に撮影OKだ。
アート作品はどれだ?
一瞬そう思ってしまうが、こちらの海岸に打ち上げられた海外からの家庭ごみのようなものが「Drifting Landscape」だ。
すべて陶器だ
ゴミなんて言ってしまったが、あえて漂流物のように見せている作品だ。
珠洲市は中国や朝鮮の文化の影響を受けている珠洲焼というものがあり、このアートの作者であるリュウ・ジャンファ氏の母国・中国の景徳鎮の陶器とともに乱雑に、ほとんど割れた状態で並べてある。
ガイドブックによれば「文化や芸術、並びに大陸との関係について、見る者を深い思いへと誘います」とのことで、これらをどう受け止めるかは十人十色だろう。
自分などは割れたさまに、関係がギクシャクしている状態を連想した。
それと同時に、長く伸びたこの配置を見ると、酸いも甘いも含めてそれでも日本と中国はずっと文化交流してきたのであり、これからも続くだろうと読み取れた。
撮り方を変えると見附島に繋がっているようにもみえる
これはあくまで自分の解釈であるので、見る人がそれぞれで受け止めればそれで良いと思う。
アートや、そのほか世にあふれる作品(映画や小説、マンガなど物語も含む)なんてものは世に出た瞬間に作家の手から離れるものなのだから、お金払って鑑賞している視聴者が各々どう解釈しようがその人の勝手、それが許されるからアートや「作品」は面白いと自分などは常々考えている。
ちなみに、黄色の案内の下の方に公開時間が9時30分から17時までと書かれてある。どの作品(イベントや屋外にあるものは除く)も基本的にこの時間帯に鑑賞可能となっている。
このことからも一日ですべて回るということはほぼ不可能であった。
少なくとも、美術館の展示会に足を運ぶたびにパネルに書かれたその解説文全部に目を通してしまう自分のような「じっくりのんびり鑑賞タイプ」の人間には無理であった。
また、この芸術祭にはこれさえ買えばどの作品(イベント除く)もすべて鑑賞できる作品鑑賞パスポートと呼ばれるものがあり、そのパスポート内には作品スタンプラリーもあるので、仮に屋外にある展示品でもスタンプを押してもらうには時間内に足を運ぶ必要があるのだ。
自分も、その作品鑑賞パスポートを前売りでコンビニで購入しておいた。前売りで2000円だった。コンビニで購入したのであくまで引換券で当日に現地で現物に引き換える必要があった。その引き換えをこの33番で行おうとしたら、それができなかった。
ここではできないので31番に行ってくださいとお願いされてしまった。パスポート内の33番のスタンプは、31番に行ってパスポートの現物を手に入れて、再びこの地に戻ってきて押してもらう必要がでてしまった。
まあ、31番は33番からそれほど距離は離れていないので良いのだけれど。
ということで、次は同じ宝立地区にある31番に向かった。
31番 石川直樹「混浴宇宙宝湯」
31番だ
どの作品も、その作品がある会場の前にはこのような黄色の案内が設置されている。作品によっては町中の民家みたいなところが会場になっていることもあるので、この案内を目印にすると良い。
31番はこの「宝湯」さんが会場
町中にある昔ながらの銭湯だ。もともとは現当主のひいおじいさん(明治時代の人)が始めた「宝座」と言う名の芝居小屋だったそうで、その後温泉を掘り当ててステージもある温泉旅館となり、一度廃業となるも現在は源泉かけ流しの銭湯として受け継がれている。
その2階が作品の会場となっていた。
2階には受付もあり、そこでようやくパスポートの現物を手に入れることもできた。
こちら奥能登国際芸術祭2017の作品鑑賞パスポート(黄色のはガイドマップ)
裏にはシリアルナンバーみたいな番号も印刷されていた。
2階の広間
いきなり宴会の様子。
いろんな展示物で奥能登の知られざる歴史に触れようとする試みらしい。
自分も田舎が能登の方なので、子供の頃に似たような光景を祖父母の家(または親戚の家)で目にした記憶があり、何だか懐かしかった。
水引もあった
鶴だろうか。隣には亀のような水引もあった。婚礼の宴会だろうか?
展示はこれだけではなく、2階の別室でもいろんな写真や展示物を見ることが出来た。
通路にも歴史を感じさせる
この歴史を感じさせる様がまた一つのアートのようにもみえる。
通路脇にさりげないアート
こういう遊び心も散見できた。
遊び過ぎだろうか
かわいいので自分としてはOK。
シュールですわ
それでいて次には雀卓
むかしのリアルな情景だろうか。
シュールであったり歴史を感じさせるリアルであったり、見事に混沌とした演出だ。
初代当主がアイデアマンだったらしく、建物そのものも芝居小屋から温泉宿へといろんな事業を展開していたのだから、その「混沌」が似合う場所なのだろう。このアートの作者である石川直樹氏も、この宝湯のそういった点や歴史に惹かれたそうなのだ。
さらにはお酒の備蓄場所のようなところもあった
お酒は「宗玄」だ。宗玄は地元、珠洲市宝立町にある酒造メーカーだ。
この部屋の窓からは建物前の酒屋さんも見える
宝湯さんとは長い付き合いのある酒屋さんだそうだ。
歴史を感じさせるどころか、現在進行系のリアルも見せられたような気分だ。自分はこの演出が、この作品の中で一番好きだ。
そしてやっぱり再びシュールな世界へ
こりゃ呪いか、結界か?
シュールだけど、昔なら有り得そうな光景にも思う。
これら以外にもシュールとリアルが混沌としていた。
シュールと
リアル
古い冷房もあった
同じ部屋に新しいクーラーも設置されているのだから、細かいところでも色々と混沌としていた。
訳がわからなくなるけれど、それでも見て回ってパネルなども読んでいると奥能登の歴史や、この建物の歴史を知ることが出来たのだから不思議なものである。
自分としてはアートの可能性というか、幅の広さというか、懐の深さというか、そういったものを発見できた展示であった。
階段の天井はかなり低かったですが
古い建物なので2階から下の階(中二階)に降りる階段の天井がかなり低かった。
ここ、中二階もあるのだ。2階なのに下に降りる階段があって、降りても1階に行くわけではなかったので、その点は混沌ではなく混乱させられた。
なお、展示場ではない1階は現役の銭湯だ。
銭湯の脱衣場の様子
お店の方(現当主と思われる)がご夫婦でいて、銭湯も撮っていいと言ってくれるので遠慮なく撮らせてもらった。
お湯も張ってあった
それもそのはずで、ここ、芸術祭中も営業しているそうなのだ。
「わに板」も掲げられていた
営業中の証だそうだ。
「ぬ」だと逆に終了とのこと
初めて知った。
改めて記すが、銭湯なのに天然温泉
しかも薪で加温しているそうだ。いいですな。
温泉分析検定書もちゃんとある
入れますよとも言われたのであるが、この日は芸術祭初日で鑑賞客が代わる代わる何人も来ていたので、おまけに自分のように銭湯の中も見に来ている人もいたので、流石に遠慮した。
再び芸術祭を見にこの珠洲市にやってくるつもりなので、その時に、今度はタオル等も持参で赴きたい。
なお、作品の会場である宝湯さんの真ん前、酒屋さんの「橋元酒店」では…
地酒の宗玄酒の試飲もできる
バスで来ていた方は試飲していた
作品案内バス「すずバス」というのも出ているようだ。
自分は車で来ていたので、試飲出来ませんでした。(自分は普段お酒は呑まないけど味見くらいはしたい)
この芸術祭は、車で見に行くこともできる。各展示場にはそれぞれ(ときには複数の展示会場兼用)駐車場が設けられているのだ。
こんな感じで看板も
ガイドマップを手に入れると、そこにもどこに停めればよいか書かれてあった。
この奥能登国際芸術祭は車でもまわれるのだ。
32番 アデル・アブデスメッド「ま-も-なく」
31番で手に入れた鑑賞パスポートを持って、33番に戻ってスタンプを押す(ここではセルフで押す)と、次は同じ宝立地区の32番の作品を見に行くことにした。
32番はのと鉄道の旧鵜飼駅にある。
旧鵜飼駅だ
のと鉄道は2005年まで珠洲市の蛸島まで伸びていたのだが、過疎化などによって穴水から蛸島間全線を廃止している。
その残った旧駅を利用して作品が展示されていた。
32番だ
作者であるアデル・アブデスメッド氏はアルジェリア出身で現在フランスのパリ在住の方だ。
この案内によれば、この作品は一部日没から21時まで鑑賞できるようだ。
どういう理由からなのかよくわからないままとりあえず見に行った。
列車がいた
あいにく線路はなくなっているが…
踏切の音はなっていた
この「まもなく」が人に反応してか、定期的にか点滅してカンカンと音がする。
その音を聞きながら列車のある反対側へと渡ってみた。
窓からなんか出ている
遠くから見ているときには気づかなかったが、列車の窓からなんか出ている。
てっきり列車の中に展示物があると思いこんでいたら、列車そのものが作品だったようだ。
中にも走っている
何かは車内にも走って後方の窓も突き抜けていた。
後方より撮影
見事に貫通。
しかもこの何か、どうやら光るものらしい。
電車が光のヤリやビーム光線で射抜かれたような見た目だ。
車内より
見事な貫通ぶりだ。こうして見るとかなり長い。
車内には「危険物持込禁止」の案内
どう見てもこの光る何かこそが危険物に思えてならないけどね。
ツッコミどころのあるアートだった。
ただ、この貫通物、昼間でもぼんやりと光っている感じはしているものの、おそらく夜のほうが映えるであろう。夜に見たら、もっと別の印象を抱くかもしれない。
何にせよ日没から夜九時まで鑑賞できる理由がこれでわかった。
なお、この旧鵜飼駅では9月1日より米粉を使ったバーガーショップがオープンしていた。
「米粉ラボ」という名のお店だ
バーガーだけではなく、米粉を使ったスイーツも売られており、その日のスイーツはワッフルであった。せっかくなので購入して食べてみた。
美味でした
こちらでメープル味。ほかにもプレーンやチョコチップ味もあった。
余談であるが、自分が購入した時はちょうどストックが売れた後のときで焼きあがるのに10分かかると言われた。その間旧鵜飼駅の中をぼんやりと眺めていたら、柱に色々と落書きされていることに気がついた。
相合傘が多い
これ、おそらく若気の至りで書いたんだと思うけど、仮にカップルが別れていてもいつまでも残ってしまうのだから、青春ってなかなか残酷だ。
なんか泣けてくる
甘酸っぱい柱だ。アート作品に負けていないのではないだろうか。
感想
とりあえず第一日目のその1だ。宝立エリアの3作品だけをひとまず紹介してみた。
小出しにしたつもりであるが、文字数だけを見ると5000文字を超えていた。
もし第一日目に見たすべてのアートを紹介していたらと考えるとゾッとする。とんでもない文字数になっていたに違いない。小出し、正解。
もっとも、それだけ面白い作品が展示されているということなのだろう。
同時に、アートを楽しみながら珠洲市の町のこと、奥能登の歴史についても知ることが出来たことも情報量(文字数)を増やしている要因になっているのだろう。これは町に溶け込ませた展示の仕方が上手いのだ。
同じ石川県民でも金沢市に住んでいるとなかなか珠洲の方まで足を運ぶことはないので、県民としても、この芸術祭は自分たちが住んでいる県内を知るいい機会になる。
もちろん県外から来られる方々に対しても、奥能登がどんなところか、また石川県が金沢市だけではないことを知ってもらえるいいチャンスになるに違いない。
石川県民である自分としてこれらを紹介して助力になればと思う次第だ。
といってもまだ39分の3作品だ。
ツアーを利用しても2日間かけてまわると言っていたし、自分自身の第一日目にまわったアート作品の数を振り返っても、開催期間50日の間にあと2回は珠洲市に足を運ばなければならないだろうから、ほんとのんびりした紹介になるかもしれない。そのへんはご容赦いただきたい。
あのときに風呂に入っていたら、もっと文字数が増えていだろう
でも、いつか入りたい。
次回は、上戸地区とラポルトすずでの出来事を紹介したいと思う。