羽咋市にある気多大社では毎年12月16日に「鵜祭り」というものが行われる。
今年(2018年)はちょうど日曜日で休みの日であったので、この度初めて見に行ってきた。
気多大社の奇祭「鵜祭り」
当ブログでもそこにいる狛犬を中心に紹介したことがある気多大社。
縁結びの神社として知られるその気多大社では毎年、捕まえた鵜の動きで来年の吉凶を占う「鵜祭り」という奇祭が行われている。
平日だろうとなんだろうと毎年必ず12月16日の朝3時から行われるため、存在を知っていてもなかなか見に行けない祭りだ。
さらには、肝心の鵜が捕まらなければその年は中止になる。昨年がそうであった。
鵜は、気多大社がある羽咋市ではなく七尾市の鵜浦町(うのうらまち)の小西家が海岸で捕まえるそうだ。捕まえる方法、技は一子相伝なんだとか。
捕まえられた鵜は、3日間かけて3人の鵜捕部(「うとりべ」と読む。その年の当番制らしい)によって気多大社まで運ばれる。これを鵜様道中というそうだ。
なんでも、捕まえられた鵜はその時点で「鵜様」と神様として扱われるとのこと。
なかなか変わった祭りだ。
そんなレア度の高さもあってか、この祭り、国重要無形民俗文化財にも指定されている。
県民としては一度は見ておきたかった。
ということで夜(未明)の気多大社へ
欲を言えば捕まえるところや鵜様道中も見に行きたかったけれど、時間的な都合で今年も不可能であったので、12月16日朝3時に行われる鵜祭りに絞って見にいってきた。
一応、気多大社の地図も
こうしてみると海の近くにあるのがわかる。
鵜祭りは後半、海岸の方に出ることになるので、方角だけでも予め頭の中に入れておいていただきたい。
拝殿で行われる
いざ、境内へ
自分が到着したのは朝の2時半前だっただろうか。
境内はものすごく静かであったけれど、このように灯りがついていたので懐中電灯とかなくても入っていける。
同じ頃、地元テレビ局のカメラマンが鳥居のあたりから撮影していたので、自分はその背後をつんだっていった。
祭りがどこで見れるのかいまいちわかっていなかったからだ。
神門では神職さんの姿も
やや早足で入っていくので、この先だろうとわかってくる。
実際、祭りはこの神門の先にある拝殿にて行われる。
神門より
奥の明かりのついたところが拝殿だ。
すでに何人か人がいるのがわかる。
自分も入っていっていいのかわからなかったけれど、同じく鵜祭りを見に来ていたおじいさんが「中に入りまっし」と声をかけてくれたので、これまたつんだっていくように拝殿の中へと目指した。
横から上がっていく
右手に階段があるのでそこを登り、襖戸を開けて入っていった。
一般人もマスコミの人も関係なくここから入っていく。
灯りはついているものの、足元が暗いので気をつけたほうが良い。
あと、靴を脱いで上がることになるので、靴をどこに置いたか覚えておかないと出るとき薄暗くてどれが自分の靴かわかりづらい。ひと目で分かる靴を履いていくなど、その点も留意したほうがいい。
中に入ってみた
拝殿の中だ。
気多大社の拝殿へと入ったの、これが初めてだ。
すでに見物人が結構いた。
後方ではカメラがずらり
マスコミ関係の人たちや、中には一般の人もいたかもしれない。動画や静止画のカメラを三脚にセットしていつでも撮影できるように待ち構えていた。
だいたい後方の真ん中あたりに陣取っていた。おそらくそこが一番、鵜の動きを捉えられるのであろう。
自分は後方の右の方に座ることになったので、みなさんがカメラを向ける拝殿の奥(本殿のある方)は角度的に見づらかった。
柱があって見づらかった
奥にも祭壇があるのがわかる。
後方でも真ん中あたりに座っていれば全部を目にできたのだろうけれど、如何せん場所が悪かった。
マスコミやセミプロのカメラマンたちが後方の同じような場所に陣取っていた意味がよく分かる。
ちなみに鵜祭りの鵜での占いはその奥の祭壇の方で、ロウソクの明かりのみの中、執り行われる。
自分が座るその角度では奥で鵜がどのような動きを見せていたのか見えないのだ。
暗闇の中で行われる
朝の3時が近づくと、神職の方が入ってきて祭りの説明をしてくれる。
先にも記したように鵜祭り、特に占っているときは暗中にて行われるとのことで、場がどうなるか一度照明をすべて落として事前にその暗さを体験させてくれる。
このように照明を落とされる
まだ始まる前なのでストーブもついている。
祭りが始まってしまうと、その火も消されてしまう。
このように真っ暗にしてしまうのは鵜が驚いて光のある方に飛んでいってしまうことがあるからなんだとか。
そのため明かりを落として鵜による占いが始まると、携帯電話の使用も、カメラのフラッシュも禁止される。
光っていると注意を受ける
デジカメだと後ろに液晶モニターがついているのだけど、そのわずかな光も駄目らしく、基本的にマスコミ関係者以外、撮影は禁止となってしまう。もちろん、マスコミ関係者もカメラの光がもれないよう注意を受けていた。
見に来ていた人の話では過去に漏れた光に鵜が反応して飛び立ち、見ている人の頭の上に着地したこともあるのだとか。
それはそれで滑稽だけど、祭りとしては台無しなのでみんなで協力しなければならないのだ。
とはいえ、マスコミ関係以外の人でもシャッターを切っている人は何人もいましたけどね。
自分なんかはモニターに手を当てて光が漏れないか何度か試しながら構えていたけど、中にはモニターの光がだだ漏れなままシャッターを切っていた人もいた。
ついでにいうと神職さんもカメラを構えたりする
暗くして祭儀が始まる前に撮影していた。
珍しい祭りなので写真に残したいという気持ちは皆同じなようだ。
この姿からもわかるように暗くなる前はいくらでも撮ってOKなのだ。
祭儀が始まる
暗くして占う前にこうして何かが始まる。
この儀式が何なのか、自分には詳しくわからなかった。
祝詞を上げているのだろうか?
なんでも木製の台がその奥に設けられているそうなのだが、やはりが自分のポジションでは柱が邪魔でよく見えなかった。
奉納しているシーンも
前の方の中央に座っていた方々は事前に神社側に納めているものがあったのか、儀式の最中、こうして呼ばれて玉串のようなものを神前に捧げていた。
見やすいところに座れるのでちょっとうらやましい。
そして暗くなる
鵜様は暗くなってからこの拝殿にやってくる。
自分たちが入ってきた入り口から鵜捕部の方々が担ぐ籠に入れられてやってくるので、拝殿内では鵜捕部さんたちが通れるスペースをあけておかなくてはいけない(これも神職さんが事前に説明してくれる)。
入り口の襖が開くと寒い空気とナマモノの香りが入ってくるので、突如として厳かな気持ちにさせられる。
「空気が変わる」とは、ああいうことを言うのだろう。
暗くなると、しかしさすがに撮影しづらい。
光を漏らさないようにと注意を受けたこともそうだが、何より暗すぎてカメラの撮影のための光量が足りず、オートフォーカスだとピントもろくに合わせられないのだ。
露出が低すぎて撮ってもただ真っ暗な画になることがわかっているから、いたずらにシャッターを切る気にもなれない。
プロやベテランカメラマンが後方真ん中あたりで陣取って三脚にカメラを固定していたのもそのためだ。
フラッシュを使えないのなら、シャッタースピードを下げるしかなく、下げるならブレないように三脚が必要なわけだ。
それでも頑張って一枚だけ撮らせていただく
もちろん、カメラの液晶画面は手で押さえてバックからも光を漏らさないように撮った。
ここまで来て一枚も撮らないというのも勿体無いなと思ったからだ。
とはいえ、角度的にほとんど何も写っていない。
ぼんやりと、放たれて動き回る鵜様の影だけが写っているくらいだ。
鵜祭りの撮影、なかなか難しいものだ。
一ノ宮海岸で放される鵜
占いという役目を終えた鵜様は再び籠に入れられて、すぐに気多大社近くの一ノ宮海岸に運ばれることになる。
そこで放されるのだ。
鵜捕部の方々が運び出すと、静かに祭儀を見ていたお客たちも放される鵜様を見ようと続々と拝殿から出ていく。
次々と拝殿をあとにする様子
拝殿の中の灯りはついたものの、外は暗いので、靴をはくときは他人のものと間違えないように、また階段を降りるときは踏み外さないように注意が必要だ。
海岸まで運ばれる鵜様
そしてそれを追いかけるカメラマンたち。
まるで連行される犯罪者のように追いかけながら照明とカメラを向けていたので、鵜祭り初心者の自分はちょっと引いた。
それにしても籠ってこんな形をしていて、こんな人力で運ばれていたんだね。
自分などはこのとき初めてその原始的な運搬方法を知った。
海岸に到着
海岸に到着して籠が止められてもやっぱり照明を当てまくってカメラを向けられていた。
おかげでこうして鵜様の姿を籠越しに撮ることができたけど、ちょっと罪悪感もあった。
このあと、籠をどけられ飛び立つことになるのだけど、明かりが強すぎると飛び立たないため、神職の人が照明を止めてくださいと、ちょっと怒るように言っていた。
まあ、そうだろう。
とはいえ、暗すぎて籠を固定している針金などが見えないからと、マスコミ関係の人たちに照明をつけてくれるよう頼んでいた場面もあったのだから、何が正解かわかったものではない。
ついでにいうと鵜様、籠をどけようとする鵜捕部の手をくちばしで突いたりするので、放すのもなかなか大変だ。
籠をオフ
鵜様だ。
自分はこのとき初めてウ様を目にすることができた。
結構、大きい。そして思った以上にかわいい。
こんなにカメラマンに囲まれてさぞかし戸惑ったであろう。
そんな同情を神様になった鵜に対してしてしまった。
改めて照明が落ち、飛び立つウ様
やっぱり周りに人が多過ぎてちょっと警戒をしていたこともあってすぐにとは行かなかったが、このあと飛びだってくれた。
暗闇の中に向かっていったので飛んでいる瞬間は、さすがに自分のカメラでは捉えることができなかった。
プロのカメラマンたちの中にはフラッシュを使って捉えていた人もいたようだけど…
そのプロ魂というか、執念と言うか、神様相手でもプロは引かないようだ。
そんな中を飛び立ったウ様…
印象に残ったのはおそらく地元の方であろうおばちゃんが飛び去るウ様に「ありがとう」と声をかけていたことだ。
地元の人からすると、やはりこの祭りは感謝すべき神事なのだろう。
比べて、飛びだったウが近くの砂浜の上に着地したとわかるやいなや「あそこにおる」と照明とカメラを手に執拗に追いかけ回していたカメラマンの姿が対照的だった。
去っても追いかけ回されるウ様に対し、先のおばちゃんが「かわいそうに」と苦笑いしていたのも印象的であった。
ウ様を写したい(映したい)気持ちもわかるけれど、もっと神様に敬意と感謝を示さないといけないなと、思うのであった。
なお、占いは、鵜さまが元気よく動き回ったので来年は「吉」、良い年になるそうだ。
感謝せねば。
余談
初めての鵜祭り、撮影しようとするとかなり大変であった。
一番大変だなと思ったのは、その寒さだろうか。
12月16日という冬に入ったこの季節で朝の3時は、晴れると放射冷却現象で気温もぐっと下がるのだ。
0℃くらいまで下がっていた
祭儀が始まるのが3時で、約1時間くらい続く。こちらの気温は終わったあと30分くらい経って撮影したものだけど、祭儀中もだいたいこれくらいの寒さだった。寒いときは-1℃まで下がっていただろうか。
おかげで途中、トイレに行きたくなった。行きたくなったものの祭儀中真っ暗で外に出るのも叶わず、終わるまでずっと我慢することになったので、トイレは事前に済ませおくとよいだろう。
境内にトイレも有るようだけど、夜中過ぎて真っ暗でどこにあるのか、使っていいのかよくわからなかったので、道の駅やコンビニなどで済ませておくといいかもしれない。
それでいて、祭儀中のいい写真を撮りたいと思うなら早めに拝殿にやってきていい場所をとることからしなければならないので、尿意との格闘はやはり覚悟しなければならないだろう。
なかなか大変だ。
それでもまた足を運んで観に来たいと、そう思ったのは鵜様がなんだかんだと可愛かったからだろうか?